日本生態学会 関東地区会

公開オンラインシンポジウム
  休廃止鉱山の坑廃水処理のGreen Remediationを考える

更新履歴

概要

日時  2021年11月30日(火) 14:00-17:00

開催形式  オンラインのみ 、日本語

企画者  松田裕之(横浜国立大学・環境情報)、山路恵子(筑波大学・生命環境)

 日本の金属鉱山のほとんどは,現在操業していない休廃止鉱山である。その休廃止鉱山において坑口や集積場などから排出される坑廃水は、酸性で金属濃度も高いことが多いため、鉱害防止を目的として中和処理などによる対策が行われている。鉱山によってはこの坑廃水処理は100 年以上も必要になるとされ、長期的な視点に立った休廃止鉱山の管理方法が問われている。特に、対策義務を負う者が不在の廃止鉱山においては、坑廃水の処理水(放流水)が排水基準を満たす法的義務はないが、その遵守を目的として担当の自治体が排水処理している。このような場合にリスク管理では、対策を実施しなかった場合の問題点を列挙し、代替案と長所短所を比較し、社会合意を図る。実際に問題になるのは、下流の保全すべき生物の生息地における生態影響と農業用水や飲用水等の取水口(「利水点等」と呼ぶ)における水質等の基準であろう。排水基準を満たしても利水点等において多少の影響がある場合も考えられるし、満たさなくても顕著な影響がない場合もあり得る。また、マンガン酸化菌などを用いた坑廃水の処理や、重金属耐性植物や植物-微生物複合共生系を利用した緑化対策等による合理化が検討されている。本集会では、これらの検討過程とその課題について報告し、議論を深める。

Most of the mines in Japan are abandoned. The mine drainage water discharged from the mines is often acidic and has a high concentration of metals, so measures are taken to prevent mining pollution. In some mines, the treatment of mine drainage water is necessary for more than 1 century, and the management of abandoned mines from a long-term perspective is a big problem. In particular, in the case of abandoned mine where there is no one responsible for taking countermeasures, there is no legal obligation for the treated mine drainage/discharge water to meet the effluent standards, but local governments treat the drainage water for the purpose of compliance. In such cases, risk management elucidate the problems that would occur in the case where countermeasures were not implemented, compares the advantages and disadvantages with alternative solutions, and seeks social consensus. The actual problem will be the ecological impact on the habitat of organisms to be protected downstream and the water quality standards at the water intake for agricultural water and drinking water (called "point of water-use"). Even if the effluent standards are met, there may be some impact at the water discharge point, etc., and even if the standards are not met, there may be no significant impact. In addition, the rationalization of drainage water treatment using manganese oxidizing bacteria and greening measures using heavy metal tolerant plants and plant-microbe complex symbiosis systems are being considered. In this meeting, the process of these studies and their issues will be reported and discussed.

参加申し込み
事前に申し込みサイトよりお申し込みください(11/28までに申し込まれた方に、オンラインサイトを通知します)

プログラム

13:30 - 13:40:趣旨説明:松田裕之(横浜国大)
13:40 - 14:05:坑廃水処理におけるグリーンレメディエーションの可能性:所千晴・淵田茂司(早稲田大学)・高谷雄太郎(東京大学)
14:05 - 14:30:「休廃止鉱山における坑廃水の利水点等管理ガイダンス(案)」について:保高徹生(産総研)
14:30 - 14:55:「任意の河川地点において水質の変化が生物群集に及ぼす影響を評価する方法:
「休廃止鉱山の坑廃水が流入する河川における生態影響評価ガイダンス(案)」の紹介
:岩崎雄一(産総研)
14:55 - 15:00:休憩
15:00 - 15:25:マンガン酸化菌利用処理技術の実用化に向けた検討:宮田直幸(秋田県立大)
15:25 - 15:50:「植物-微生物複合共生系を利用した新たな緑化対策技術調査」の可能性:山路恵子(筑波大学)
15:50 - 16:15:微生物の種間相互作用から紐解く生態系ファンクショニング:重油分解,農薬解毒,鉱山廃水:佐藤由也(産総研)
16:15 - 16:20:休憩
16:20 - 16:25:コメント:毛利智徳(経産省)
16:25 - 17:00:総合討論 (司会):松田裕之(横浜国大)
17:00 - 17:00:閉会挨拶:松田裕之(横浜国大)

日本生態学会関東地区会

要旨(abstract)


坑廃水処理におけるグリーンレメディエーションの可能性:所千晴・淵田茂司(早稲田大学)・高谷雄太郎(東京大学)

グリーンレメディエーションとは、環境修復、環境浄化におけるすべての環境負荷を考慮してそれを最小にする処理法を選択しようとすることである。まさにカーボンニュートラル対応が急速に進められている現在、LCAを用いてカーボンフットプリントを最小化しようしている概念の坑廃水処理版と考えることもできる。休廃止鉱山の処理には、場合によっては150年以上を要するため、その処理のライフサイクル全体にわたって環境負荷をしっかりと低減させる取り組みが重要である。我々はその取り組みの1つとして、統計的モデルによる坑廃水量・水質の将来予測と、地球化学コードを用いた処理機構の定量的把握を行っている。これらの取り組みにより、各鉱山の水量と水質に応じた最適な処理法について、パッシブトリートメントも候補に入れながら選択すること、そして薬剤添加を含めた処理プロセスを最適化することも目的としている。当日の発表では、いくつかの鉱山に対して検討した例を紹介する。

Green remediation is a concept to select a sustainable treatment method that minimizes all environmental loads in environmental remediation and purification. Since treatment of mine drainage may take more than 150 years in an abandoned or closed mine, it is important to make efforts to reduce the environmental load throughout the life cycle of the treatment. As one of the efforts for it, we have tried to predict the future amount and quality of mine drainage by statistical model and quantitatively understand the treatment mechanism using geochemical code. Through these efforts, the objective is to select the optimum treatment method according to the amount and quality of mine drainage in each mine, including passive treatments, and to optimize the treatment process including the addition of chemicals. In the presentation, we will introduce examples of studies on several mines.


「休廃止鉱山における坑廃水の利水点等管理ガイダンス(案)」について:保高徹生(産業技術総合研究所)

休廃止鉱山において坑口や集積場などから排出される坑廃水は、一般的に酸性で金属濃度も高いため、鉱害防止を目的として中和処理などによる処理が行われている。鉱山によってはこの坑廃水処理は、100年以上も必要になるといった学術成果も示されており、処理にかかる人的及び経済的コストの低減化を含め、長期的な視点に立った坑廃水の管理方法が必要となってきている。
このような背景を受けた対応策として、中央鉱山保安協議会では「特定施設に係る鉱害防止事業の実施に関する基本方針(平成25年)」の中で、義務者不存在鉱山における水質管理目標の弾力的運用として、「坑廃水処理の終了に向けた地元理解を得るため、下流の利水点等の環境基準等を満足できる鉱山では、下流影響度に関するデータの把握・蓄積を行い、データ解析等の検討を実施する」としている。すなわち、坑廃水原水が排水基準を超過していても、下流の利水点や環境基準点等で環境基準等を満足できる義務者不存在鉱山では、放流口での排水基準管理ではなく、下流の利水点等での水質や生態系への安全性を確保した上で坑廃水を管理あるいは監視するという、利水点等管理を検討することの重要性が近年各所で指摘されている。
近年、休廃止鉱山におけるグリーン・レメディエーション(元山回帰)の調査研究事業において設置されたグリーンレメディエーション(GR)委員会では、この利水点等管理のあり方についての検討を進めてきた。休廃止鉱山の多くが位置する上流河川では、サケマスなどの遊漁も含む生態系サービスが利用されていることも少なくない。そのため、義務者不存在鉱山では、坑廃水処理において排水基準に適合をすることを求められる法的な根拠はないが、坑廃水管理について地元の理解も得ながら検討するためには、下流河川の利用状況に応じた適切な管理方法を検討し,設計・実施することが肝要である。本発表では、休廃止鉱山における坑廃水の利水点等管理ガイダンス(案)について説明するとともに、適用に向けた課題を整理する。


任意の河川地点において水質の変化が生物群集に及ぼす影響を評価する方法:「休廃止鉱山の坑廃水が流入する河川における生態影響評価ガイダンス(案)」の紹介:岩崎雄一(産業技術総合研究所 安全科学研究部門)

金属鉱山の坑廃水やその処理水は,流入先の河川の水量にも依存して,下流の水質(例えば,亜鉛などの金属類の濃度)を変化させる。このような状況は,鉱山以外の事業所(点源)だけでなく,都市化による土地利用の変化といった面的変化でも起こりうる。では,このような変化が河川生物群集に及ぼす影響をどのように評価すればよいのだろうか。これまでの研究の蓄積や歴史を鑑みると,「そのような方法は確立されているはず」と期待されるが,残念ながら日本では定まった方法はない。そのため,そのような評価を実施するための手引き(ガイダンス)もない。本発表では,休廃止鉱山の坑廃水が流入する河川においてどのように生態影響評価を実施すべきかについて記述した,ある意味でチャレンジングなガイダンス(案)について,その概要を作成背景や事例とともに,紹介したい。


マンガン酸化菌利用処理技術の実用化に向けた検討:宮田直幸(秋田県立大学)

坑廃水の鉱害防止対策として中和処理が広く行われているが、低環境負荷、低コストの処理を目指して、自然の浄化作用を活用したパッシブトリートメント技術の開発が鋭意進められている。マンガンの中和処理ではpHを10程度に上げる必要があるが、マンガン酸化菌を活用することにより、pH中性付近で酸化物として不溶化できるため、マンガン含有坑廃水処理への適用が期待される。一方で、マンガン酸化菌の利用では、マンガン酸化菌を増殖させるための有機性基質の供給や処理効率の改善などの課題が残されている。演者らは、有機性基質を供給しなくてもマンガン酸化菌が保持され、マンガン酸化が持続的に進行する集積培養系を構築した。このような集積系を導入した小型接触酸化槽を用い、マンガンの処理性能や金属負荷の影響等を明らかにするとともに、マンガン酸化細菌群集の機能解明を進めている。これらの基礎的な研究成果をもとに、マンガン酸化菌利用処理技術の実用化につなげて行きたいと考えている。

Neutralization treatment is widely used for remediation of mine drainage waters. Passive treatment, utilizing natural purification processes, has been focused on as low-cost, low environmental impact remediation technology. In the neutralization treatment of manganese (Mn), it is necessary to increase the pH to ~10. Microorganisms that oxidize Mn at neutral pH are potent tools for removing Mn from mine drainages; however, there are several issues to be resolved, including the supply of organic substrates for growth of Mn oxidizers and the improvement of treatment efficiency. We obtained microbial enrichment cultures capable of oxidizing Mn without supply of organic substrates and analyzed the Mn-oxidizing microbial communities. Using small-scale bioreactors, we investigated the treatment of Mn-containing mine drainages. Based on the results of these studies, we hope to lead to practical application of microbial Mn oxidizers for mine drainage remediation.


「植物-微生物複合共生系を利用した新たな緑化対策技術調査」の可能性:山路恵子(筑波大学・生命環境系)

金属元素を多く含む土壌の上に成立する植生は、通常の土壌に成立する植生と異なり、生理的にも生態的にも適応できる植物種が定着できると考えられている。国内の鉱山環境においても特徴的な植生の成立が確認されていることが知られる。本発表では、本研究室で2006年以降、実施してきた鉱山跡地の自生植物の金属ストレス機構に解明された事例についてお話する。発表者は、鉱山跡地で自生する植物の中でも「金属元素を吸収し蓄積し解毒化する耐性機構」を有する植物種に着目してきた。その生理的特性を天然物有機化学的手法、植物栄養学的手法に基づき解析し、植物自身の有する耐性機構の解明を試みる一方で、微生物学的手法に基づき、植物と相互作用をする微生物の関与した耐性機構を解明してきた。対象植物には、遷移初期草本、遷移初期樹木である陽樹、遷移後期樹木である陰樹などがあり、それぞれが種特有の耐性機構を獲得していることがわかってきた。それぞれの植物がどのように野外環境である鉱山跡地環境に適応しているのかについて示し、その基礎的知見が緑化対策技術に活かせる可能性について考察する。

It has been known that vegetation on soils rich in metal elements, such as mine sites, would be physiologically and ecologically different from vegetation on normal soils, because the plants species could adapt to the environment. According to the previous researches, characteristic vegetation has been confirmed in mine sites in Japan. In this presentation, I will talk about the elucidation of metal stress tolerance mechanism in native plants at a mine site, which has been conducted in our laboratory since 2006. Especially, the plant species, which have metal stress tolerance mechanism to accumulate and detoxify metal elements among the native plants in the mine sites. The physiological characteristics of these plants have been analyzed using organic chemical and plant-nutrition methods to elucidate the tolerance mechanisms of the plants themselves, and microbiological methods have been used to elucidate metal stress tolerance mechanisms involving microorganisms that interact with the plants. The target plants include early transition grasses, early transition trees, and late transition trees, each of which has acquired species-specific resistance mechanisms. Additionally, the possibility of applying this basic knowledge to greening countermeasure technology will be discussed.


微生物の種間相互作用から紐解く生態系ファンクショニング:重油分解,農薬解毒,鉱山廃水:佐藤由也(産業技術総合研究所)

坑廃水に含まれる重金属に限らず、自然環境では微生物が有害物質の解毒に大きく貢献している。本発表では、微生物同士、もしくは微生物と昆虫間の種間相互作用に着目した次の3つのトピックを紹介したい。(1) 害虫と共生細菌の協力的な農薬解毒:農業害虫であるカメムシとその共生細菌が相互に助け合いながら農薬解毒を行うという興味深い現象を見出した。(2) ごくわずかな微生物が重油分解活性を左右:重油含有廃水を処理する水処理微生物コミュニティでは、重油分解菌そのものではなく、分解菌をサポートする存在量ごくわずかな微生物の活性が全体の水処理性能を左右していることがわかった。(3) パッシブトリートメントにおける微生物の役割分担と競合:坑廃水を微生物で処理(パッシブトリートメント)する場合、鉄酸化細菌、高分子有機物分解菌、硫酸還元菌など複数の微生物群の活躍が必要である。廃水処理装置の運転条件を変えることで処理性能が変わるが、それが、装置内の環境変化によって生じる微生物同士の競合関係の変化によるものである、というメカニズムを明らかにした。

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